特別養子縁組で迎えた子どもと暮らす養親の瑛子えびすこと申します。
特別養子縁組を検討したとき
「もし、養子に迎えた子どもに病気や障害があったら、育てられるだろうか…」
心配になる方は多いと思います。
養子の子育て、さらに障害がある子どもとなると不安は募りますね。
子どもに障害がある可能性とどうむき合っていくとよいか、私たちの経験談もふまえ、お伝えします。
養子の対象になる子ども、障害の割合は高いのか?
あるデータがあります。
厚生労働省の調査
「里親が育てる障害児・発達障害児の推移」
https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/support/42358/ より
2013年 委託総数4534人 障害あり933人 割合20.6%
↓
2018年 委託総数5382人 障害あり1340人 割合24.9%
「里親宅で育つ子どものうち、4人に1人が何らかの障害がある」
障害ありの内訳 (重複回答あり)
- 知的障害8.6%
- 自閉症スペクトラム6.7%
- 注意欠陥多動性障害6.5%
里親が育てる子どものデータなので、特別養子縁組の対象になる子どもと完全に一致はしませんが、参考になるデータであると思われます。
2016年の日本財団の「養子縁組家庭に関するアンケート調査結果」を見つけました。
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2018/12/wha_pro_hap_09.pdf
p.3「子どもの心身の状況」
障害等ありの割合(児童養護施設入所児童等調査との比較)
- 今回調査(養子)14.3%
- 里親委託児 20.6%
子どもの総数中、障害がある割合のデータを見つけられず、比較が難しいのですが、これらの数字は一般家庭より多いのではないかと感じます。
どんな病気や障害が想定されるか
2018年に参加した、民間団体のbabyぽけっとの説明会で、今までにあっせんした経験のあるお子さんの病気や障害が紹介されていました。
重度の場合は児童相談所にお願いするので「普通の生活ができるレベルの障害の子たちです」と説明されていました。
生後すぐにわかる場合
- ダウン症などの遺伝子疾患
- 奇形(口唇口蓋裂、多指症、鎖肛等)
- 心臓疾患(ダウン症に合併しているケースも多い)
babyぽけっとの説明会での代表の話です。
「ダウン症のお子さんを受け入れる民間団体はbabyぽけっとと他にもう一団体しかない、そのためbabyぽけっとではなるべく受け入れるようにしたい」
もう一団体とは、おそらく NPOみぎわ(http://migiwa.link/)ではないかと思います。
奇形の口唇口蓋裂、多指症は外見でわかるので抵抗がある方もいるかもしれませんが、手術を受ければ、見た目にほとんどわからないくらいになる場合がほとんどと話されていました。
ある程度の年齢にならないとわからない場合
- アレルギー(花粉症・アトピー性皮膚炎等)
- 聴覚障害(聾)・視覚障害(全盲)
- 発達障害
- 知的障害
聴覚障害は新生児聴覚検査で見つかる場合もありますが、全例で行われているわけではなく見過ごされてしまい、ある程度の年齢になって、聞こえていないことを疑われ、検査で見つかるケースがあるそうです。
発達障害は生まれつきの脳機能の障害ですが、診断されるのは早くて1歳半~2歳程度とされています。
前述の記事(https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/support/42358/)には、障害のある子どもを養育する里親家庭への調査で、半数以上のケースが養育中に障害があることがわかった、つまり委託前には障害があるとわかっていなかった、という調査結果も書かれています。
障害児の割合が高いとされる理由
考えうる可能性を挙げてみました。(私見ですので参考程度にお願いします)
遺伝の可能性
予期せぬ妊娠がわかったときに、しかるべき相談機関につながることができない。
自分で判断ができずに、問題を先送りしてしまい、中絶可能な期間を過ぎてしまったり、未受診のまま自宅で出産にいたったりする。
そのような女性の社会的な背景は、貧困、若年、家族との関係が希薄、周囲に頼れる人がいないなど多様です。
そのなかの一つの可能性として、女性に発達障害や軽度の知的障害があり、有益な情報を選択することが難しかったり、助けを求める力が弱かったり、周囲とのつながりが保てなかったりすることが考えられます。
発達障害や軽度の知的障害はある程度の割合で遺伝することが知られています。
ADHD(注意欠陥多動性障害)の場合を例に挙げます。
親がADHDの場合、その子どももADHDである可能性は非ADHDの親の場合と比べると、5~10倍高いといわれています。これを確率に直すと、親がADHDの場合、50~80%(平均70%)の確率で遺伝するという研究結果が出ています。
https://medicalnote.jp/contents/171122-010-FI より引用
慈恵病院で出産後に内密出産が回避されたニュースの取材記事。
記事から一部引用します。
軽度知的発達症の人や境界知能の人は、中等度の知的発達症の人のようには、周囲から気づかれることが少ないです。一見、普通の人と変わらない生活を送っています。ですが物事の判断に苦手さがあり、計画を持たずに妊娠してしまったり、妊娠しても産婦人科受診ができないとか、妊婦健診に通えないとか、赤ちゃんのお世話が十分にできないことがよくあります。
育てられない状況の裏には、実母さんの特性や障害が隠れているケースがありそうです。
生みのお母さんの胎内環境・出産環境による影響
上記の記事では、遺伝を除くADHDの関連因子として
- 周産期歴(未熟児、母体内感染症の有無など)
が挙げられています。
以下、児童相談所での面談で聞いた話です。
予期せぬ妊娠で、妊娠がわかってからも飲酒や喫煙をやめなかったり、覚せい剤などの薬物を使用していたりするケースがあります。
また、未受診(妊娠中の健診に行っていない)が多く、妊娠中の栄養状態が極端によくなかったりすることで子どもに影響が出てくる可能性があります。
自宅出産で墜落分娩(不安定な場所で生まれてきた赤ちゃんを支える人がおらず、床などで頭を打つ)となり、やわらかい新生児の頭が受傷してしまうこともあるとのこと。
後天的な(環境的な)要因
上記の記事では、遺伝を除くADHDの関連因子として
- 療育環境(子どもの健診受診歴・予防接種歴、喫煙者の有無、経済状況、ネグレクト、虐待の有無など)
も挙げられています。
生育過程におけるネグレクトや虐待の影響で、子どもの脳が萎縮し、発達障害や知的障害に近い症状が出る場合もあるそうです。
障害がある子どもでも断れない?児相と民間の違い
babぽけっとなど一部の民間団体では、団体に登録する(待機の状態になる)ときに「どんな子どもでも受け入れます」という誓約書にサインすることを養親希望者に求めます。
子どもに重大な病気や障害があってもマッチングされたらお断りできない、私も当初はそう考えていました。
そんなときに、児童相談所での個人面談がありました。
「子どもに病気や障害があったらどうしますか?」と質問されました。
受け入れます!ある程度の年齢にならないとわからない障害もあったり、迎えたときは健康でも途中で病気や怪我で障害を負う場合もあったりすることもわかっています。
本当にそう言いきれますか?
自分で産んだ場合でも子に病気や障害が見つかることもあるし、同じなので。
養子だからこそ、悩む養親さんが多いんですよ。自分で産んだ子なら受け入れられても養子ではそうはいかないケースはあります。
迎えたことを後悔する人もいるということですか?
そうですね。後悔していると話された養親さんも過去にはいました。
そう言われると難しいですね…自信がなくなります。
私たち児相は養親さんにどんな子どもでも受け入れることを求めているわけではないのですよ。
そうなんですか?無理な場合は無理と言ってもいいということですか?
もちろんです。
病気や障害といっても程度はさまざまです。どんな場合なら受け入れられるか、受け入れられないか、ご主人とよく相談をしてください。
児相の立場としては、養育中に養親が「やっぱり育てられません」となるのが子どもにも里親にも大きなマイナスなので、その事態を極力避けたいのだと感じました。
あらためて夫と話し合いをしました。
結論として、はじめから24時間介護が必要だとわかっている重度の病気や障害がある子どもは受け入れが難しい。
ただし、いったん迎えた子どもがのちにそういった状態になったときは自分たちで間違いなく育てる。
と児童相談所に伝えました。
私たちが経験したように、児相の場合、迎える前の段階で子どもの希望条件を聞いてもらえます。
委託の打診時(こんな子どもがいますがどうですか?と聞かれる)に状況を聞いて、難しいともし思えば、断ることもできます。
忘れてはならないのは
「家族として迎えた以上、どんな子どもであっても自分の子どもとして育てる」
どこから迎える場合でもこれが大前提です。
児童相談所から受けられる支援
子どもに発達の遅れや障害があるとわかった場合、養子実子に関わらず、児童相談所に相談できます。
児童相談所は虐待対応などが注目されがちですが、子育て全般の総合相談窓口。
心理士さんなどの専門職が在籍しているので、定期的な支援を受けることができます。他に、地域の保健師さん(行政や保健所所属)に相談することも可能です。
子どもに障害があったときに、子どもにとって最善の環境を整えられるよう努力する親の姿勢が大切だと考えます。
近年、子どもの療育施設や放課後デイサービス(障害のある子の学童保育のようなもの)が少しずつ増えてきています。
そのような地域の情報を事前に持っておくのも、ひとつの安心材料になるかもしれません。
新生児ではなく幼児の受け入れを希望する選択肢
特別養子縁組では新生児を迎えるイメージがあるかもしれませんが、実際には子どもは新生児に限りません。(特に児童相談所委託の場合)
どうしても、子どもの病気や障害の不安が大きいのであれば、発達の状態がある程度わかるようになった年齢の子どもを希望するのもひとつの選択肢だと思います。
ただし、幼児を受け入れた場合には「試し行動」が見られ、一定期間の養育が非常に難しくなることが多いです。
試し行動について詳しくはこちら。
https://tokubetsuyousiengumi.com/2022/03/14/tamesikoudou/
障害のある子どもであれば養親の要件が緩和される場合も
ある民間団体の説明会でお会いしたご夫婦。
新生児を受託して育てるには、かなり高齢に見えました。
そのご夫婦が話されました。
「私たちは高齢で、特別養子縁組を普通に望んでも無理だと経験上わかっています。でも、病気や障害のあるお子さんならあっせんの可能性はあるかもしれないと思って来ました。そういうお子さんをぜひ育てたいのです」
このご夫婦が審査を通ったのかはわかりません。
それを聞いてなんとも言えない気持ちになったのを覚えています。
ベアホープのホームページ(https://barehope.org/adopt-a-child/)には次のような記述があります
ベアホープでは、受託時のお子さんとの年齢差は45歳差までとしています。(ご夫婦間で年齢差がある場合、年上の方を基準といたします。)審査にかかる期間を予測するのが困難なため、お申し込み時は44歳差までとなります。
ただし、病気や障害が明らかなお子さんの受け入れをしてくださるご夫婦は、年齢差の要件緩和をご希望いただけます。
babyぽけっとの岡田氏も話されていました。
「障害がある子どもがいったん施設(乳児院や児童養護施設)に措置されると、里親宅に措置変更し受け入れてもらえるチャンスは本当に少ない」
非常に考えさせられます。
まとめ
- 里親宅で養育される子どもに障害がある割合は一般より高そうである
- 障害はダウン症などの生まれてすぐにわかるものと発達障害など一定の年齢にならないとわからないものがある
- 障害への考え方は児童相談所と民間団体で異なる
- いったん受けいれた子どもに障害があるとわかっても返すことはできないことが前提
- 受け入れる前であれば、児相の場合は子どもの希望条件を出したり、打診を断ったりすることができる
- 障害がある子どもにとって最適な環境を整える姿勢が求められる
- ある程度の年齢で発達の状態がわかる子どもを希望する選択肢もある
夫婦で十分に話し合って、子どもを受け入れたあとの生活をイメージし、冷静に判断する、夫婦で共通の認識をもっておくことが大事だと経験上思います。
特別養子縁組で子どもの性別や年齢が希望できるかはこちら。
https://tokubetsuyousiengumi.com/2021/06/24/seibetu-eraberu/
特別養子縁組で後悔しないために 子どもの障害以外の不安の解消はこちら
https://tokubetsuyousiengumi.com/2021/08/06/koukai-fuan
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