特別養子縁組が進まない理由 養子を迎えたい人が少ないわけではない事情

特別養子縁組の基礎知識

特別養子縁組で迎えた子どもと暮らす養親の瑛子えびすこと申します。

現在、日本には親といっしょに暮らせない子どもがおよそ4万5千人。
その子どもたちの約8割が養護施設(乳児院・児童養護施設)で暮らし、約2割が養育里親家庭で暮らしています。

一方で特別養子縁組の成立件数は年間500〜700件程度。
令和元年の成立件数は711件です。

生みの親と暮らせない子どもが大勢いるのに、なぜ特別養子縁組件数が増えないのか。

「養子を迎えて育てようと考える人が少ないから」とイメージする方が多いのではないかと思います。

本当にそうなのでしょうか?

特別養子縁組で子どもを迎えた当事者として感じてきたことを書きたいと思います。(長文です)

 

本当に養親希望者は少ないのか?

里親登録数に対しての委託数

平成29年度末の少し古いデータなのですが、ご覧ください。

  • 養子縁組里親登録数 3781
  • 養子縁組里親委託数 299
  • 委託児童数 299

この数字は、養子縁組里親として子どもを迎えたいと登録している人が全国で3781人いるのに対し、実際に委託されたのは299人という意味です。

養子を迎えて育てたいと希望する夫婦は多いのに、希望が叶って委託されるのは10%にも満たないことがわかります。

この数字、意外に感じられませんか?

里親登録手続きには長い時間と多大な労力(1年程度かかて研修への参加・面談・施設実習等)が必要です。
その時間と労力をかけても登録したということは、本気で子どもを迎えたいと希望していることを示していると思います。

養子を迎えることに興味はあるけど、そんなに時間がかかるならとあきらめてしまった方を含めれば、子どもを迎えて育てようと考える人数はもっと多いのではないかと考えます。

 

潜在的な里親希望者

日本財団が行った調査によると、潜在的な里親希望者は100万世帯いると結果が出ています。

潜在的な里親候補者は100万世帯!なぜ、里親・養子縁組制度が日本に普及しないのか? | 日本財団
取材:日本財団ジャーナル編集部 「里親」や「特別養子縁組」と聞くと、どこか遠い言葉に感じる方が多いかもしれない。しかし生みの親のもとで暮らすことができずにいる子どもが、日本には約4万5,000人いる。そのうち8割以上が、

この調査は養子縁組里親だけではなく、養育里親を含む数字です。

制度がもっと知られれば里親になろうと考えるだけでなく、行動する方が増えるだろうと思われます。

特別養子縁組が進まないのは子どもを迎えたい人が少ないからではないといえるのではないでしょうか

 

里親の新生児の希望が強い

ただし、待機している里親側にも特別養子縁組が進まない理由があります。
それは新生児(低月齢時)を迎えることを希望する里親が多いことです。

施設(乳児院・児童養護施設)に入所している子どもは0~18歳です。
子どもの年齢が上がるほど、養子縁組の可能性が低くなってしまいます。

育てる側としては

  • はじめから自分で育てたい
  • 幼児でも「試し行動」と呼ばれる、育て親の愛情を試すような行動を見せ、(一定期間ではあるが)困難な養育になることが多い
  • 子どもが1歳になるまでしか育児休業が認められていない(保育園入園が困難などの事情で2歳まで延長可能)

などの理由で年齢が低い子どもとの養子縁組を望む傾向があります。

「何歳で委託されてもその後1年間は育児休業の対象」となれば、より幅広い年齢層の子どもが養子縁組の機会を得ることになるかもしれません。

ただ「高年齢児で養子縁組の対象になったが委託先がない」ケースがどれくらいあるのか気になって調べましたがデータが見つかりませんでした。

実際のところ、どうなのでしょう。

 

特別養子縁組に消極的な児童相談所

実親と暮らすことが難しい子どもの措置先を決めるのは児童相談所です。

まずは施設へ措置の方針

「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくすの185ページに次のような記述がありました。

産まれて3か月間が、赤ちゃんにとって、愛着の絆形成の視点から見てもっとも重要であるという識者の指摘を忘れてはなりません。

ところが「まずは様子を見る」ということで、多くの児童相談所が赤ちゃんを乳児院に措置してしまっています。長期間、乳児院や児童養護施設に預けた後に里親家庭へ委託すると、その間に反応性愛着障害を発症させていまいます。そのリスクに、ぜひ気づいてください。

生後すぐに養親候補者に子どもを委託する「赤ちゃん縁組」を導入する、児童相談所(都道府県)もありますが、ごく一部。
多くの場合、「まずは様子を見る」=乳児院へ措置という選択がされています。

一度措置されてしまうと、その後アセスメントされることなく漫然と措置され続けている実態があるようです。

また、施設にいったん措置には子どもの発達を見極める意味合いもあると聞きます。
自閉スペクトラム症などの発達障害が診断されるのは早くても2歳、3歳になってから。

発達の遅れや特性の有無を確認するまでは施設措置が望ましいという考え方が根強くあるのかもしれません。

 

実親が親権を手放すということ

施設にいる子どものうち孤児(親がいない子、亡くなっている子)はごくわずかで、生みの親(実親)が存在してることがほとんどです。

さまざまな事情があり、親子がいっしょに暮らせない状態にあります。

子どもが養子の対象になるためには、実親が養子縁組に同意し「親権」を手放さないといけません。

施設に入れたまま、何年も面会に来ず、誕生日に連絡もせず、全く子どもとの関わりが無い状態、周囲からは里子や養子になる方が望ましいと思われても、実親がそれに同意しなければ何も始まらないのです。

虐待など特別な事由がある場合は実親の同意がなくても特別養子縁組が成立する場合もあります。

特別養子縁組の成立には、養子となる者の父母の同意がなければならない。ただし、父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は、この限りでない。[民法第817条の6]

 

実親が自分で育てることが難しいと認め、子どもの幸せのために養子に出すことを受け入れ、同意するまでには様々な段階が必要だと思います。

実親のカウンセリングは現実にはほとんど無いようです。

今現在、何らかの事情を抱え、お子さんを児童養護施設に預けている親御さんの殆どが養子縁組制度についてのカウンセリングを受けてないようです。そうした生みの親側からみて、選択肢の一つに養子縁組があるという情報がないことも、日本で養子縁組が広がっていない要因だと考えます。

https://florence.or.jp/news/2017/08/post18857/
より引用

子どもを手離した実親の喪失感はとても大きく、子どもと別れてからも実親の人生は続いていきます。
子どもを託したあとも継続して、実親への心理的なフォローがあることが望ましいと考えます。

 

児童相談所は本来の機能を果たせているか

児童相談所の役割は、子どもひとりひとりに個別のアセスメントを行い、子どもが実親や他の親族らと暮らせる可能性がないか、それが難しい場合でも子どもの幸せのために、施設入所が最善の選択肢なのか、考え続けることだと思います。

そもそも児童相談所が養子縁組の提案をしていない(実親が養子に出すという選択肢を知らない)ケースもたくさんあると思われます。

養子を迎えたいと児童相談所に相談に行ったとき「この地域には特別養子縁組の対象になる子どもがいない(少ない)です」と言われるのは、あるあるです。

  • 本当に対象になる子どもがいないの?
  • 個別ケースをきちんとアセスメントできていないだけでは?
  • 養子縁組などの提案を実親さんにしていないのでは?

と疑ってしまいます。

以前に施設の職員さんと話したときのこと。
児童相談所の職員さんもさまざまで、施設に措置すれば安心と書類のやりとりだけで子どもにまず会いに来ない、極端な場合、担当が変更に(交代に)なるあいさつにしか来ないようなケースもあるとのこと。

児童相談所の職員は全ての職員が児童福祉司資格を持っているわけではありません。
公務員の人事異動でたまたま児童相談所に配置されただけ、一定期間で異動になるため、本腰を入れて、子どものために取り組もうとしない方が残念ながらいるのではないかと思います。

 

児童相談所と民間団体とのギャップ

民間団体では養親不足?

民間団体のなかには特定妊婦支援を積極的に行い、年間数十件のあっせんを行うところがあります。

そういった団体は養親不足で、養親希望者を緊急で募ったり、面談などの登録の手続き後すぐにあっせんの打診があったりすることもあります。

なぜ、児童相談所では待機している里親が大勢いるのに民間では養親希望者が不足する、不均衡が起きているのでしょうか?

民間団体へ支払う手数料が高額

児童相談所からの委託と民間団体からのあっせんの大きな違いは、経済的負担です。

子どもを迎えるのに高額の費用がかかると知って驚く方は多いと思います。

 

「特別養子縁組にかかるお金 児童相談所と民間の費用比較」


で書いていますが、児童相談所から子どもを迎える場合は費用は無料に加え、入籍するまでは措置費(委託費)として、都道府県から々5万円~6万円程度の生活費が支給されます。

「特別養子縁組あっせん団体の費用比較」


民間団体から迎える場合は、措置費の支給は無く、手数料として100万円を超える(数十万から200万円程度の幅あり)負担が必要です。

「なぜ民間団体から子どもを迎える費用は高額なのか」


で書きましたが、民間団体へ国から支払われる補助金はごくごく少額で運営費(実親支援のための費用も含む)は養親希望者が支払う手数料などで賄われているのが実情。

一部の都道府県では、民間団体からのあっせんを受けた場合に養親が補助金が受けられるようになりましたが、全都道府県ではありません。
https://tokubetsuyousiengumi.com/2020/07/03/minnkann-joseizigyou/

 

不妊治療を行ったのちの、高額の費用はかなり大きな負担。

民間団体からのあっせんではなく、児童相談所から委託を待っている人が多くいるのもうなずけます。

 

養子縁組家庭が誰の身近にもいる未来

少しずつ成立件数が増えてきているとはいえ、養子縁組家族はまだまだマイノリティー。
病院、保育園、郵便局、銀行、どこの手続きも「養子のケースは初めてです」と言われるのが日常です。

身近に養子縁組家庭がいない、いても知らない(養子縁組家庭であることを積極的に打ち明けていない家庭もある)と思っている方が多いと思います。

絶対数が増えて、誰の身近にも養子縁組家庭があるようになれば認識は変わるだろうと思います。

私が子どもの頃、両親が離婚している家庭はまだ少なかったです。クラスに1人いるかいないかくらいでした。
この30年でずいぶん変わりました。

「ああ、○○さん宅も、△△さん宅もそうよね」くらい養子縁組家庭も身近な存在になればきっと変わります。

これは、実親と別れなければならない子どもが増えることを願っているわけでは決してなく、施設で暮らす子どもが減ればいいなという意味です。

 

養子を迎える選択肢を一度は考えてみる

厚生労働省は不妊治療が保険適応になるのと同じくして、不妊治療開始前に里親や養子縁組の情報提供を強化する方針を出しました。

 

現状、特別養子縁組希望者のほとんどが不妊治療経験者で、制度を不妊治療中の方に知ってもらうことは重要です。

ですが、妊娠出産可能かどうかは養子を迎える選択とは本来は別にあるべきこと。

妊娠出産できる方が養子を迎えても何ら問題はないはず。

子どもを育てたいと考える方が不妊治療を受けるかどうかに関係なく、養子を迎える選択肢を一度は考えてみるようになれば、意識はまた変わるのではと思っています。

私自身、特別養子縁組制度を知っていたのに不妊治療を受けました。子どもを産みたい気持ちが尊重されることも望んでいます。

 

子どもの幸せを願って手を離す実母さんの決断が非難されない世の中へ

養子縁組に子どもを託す実親さんを責めたり、非難したりする意見をSNSで目にします。

自分の手元で育てるより誰かに託した方が子どもが幸せになる、そう考えて、子どもと別れると決断することはとても勇気が必要だと思います。

その決断があたたかく支持される世の中になることを願います。

子どもを託した実母さんの心中をつづったnoteをぜひ一読ください。
https://tokubetsuyousiengumi.com/2021/06/15/zitubo-kimoti/

 

まとめ

生みの親と暮らせない子どもが施設にたくさんいるのに、特別養子縁組が進まない理由を一養親なりに考えてみました。

子どもを迎えたい大人が少ないことが理由ではないこと、実親さんが親権を手離すことの難しさと精神的なフォローの不足、児童相談所と民間団体からの特別養子縁組の違いなどを知っていただけたらうれしいです。

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