ドラマ「はじめまして、愛しています」から学ぶ『試し行動』

特別養子縁組の基礎知識

特別養子縁組で迎えた子どもと暮らしています。瑛子えびすこです。

養子の子育てが実子と違う点は

    • 真実告知
    • 試し行動
    • ルーツ探し
    • 思春期のきびしさ

などが挙げられることが多いです。

「試し行動」とは何か、どういった意味があるのか、対応策などについてまとめます。

 

試し行動とは

特定の大人との愛着関係が形成されていない子どもは、基本的には大人に対する信頼感を持ちえていません。愛されたいと思っているのに、それを素直に表現できないので、色々な問題行動を起こして、相手の大人の気を引いたり、相手を操作しようとしたり、反抗的であったり、攻撃的だったりすることもあります。そういう行動を「試し行動」と名づけました。

子どもの養子縁組ガイドブック P132より

「試し行動」とは、「私がどんなに不細工なことをしたとしても、どんなに悪いことをしたとしても、私を手放さないか。すなわち、無条件に私であることを引き受け、愛し続けてくれるのか?」を確かめることなのです。

子どもの養子縁組ガイドブック P133より

「子どもの養子縁組ガイドブック」のP129~145「試し行動について」の章は必読です。

 

里親が子どもと暮らし始めて以降の子どもの変化について、上記の本の内容を簡単にまとめます。

見せかけの時期

施設等で暮らしていた子どもを家庭に引き取ると、子どもは「見せかけの時期」と呼ばれる、とてもおりこうさんを演じて見せる期間がある。新しい養育者である里親が自分とどのように接してくれるか様子を見ている、短くて3日、長くても1週間の期間。

「試し行動」の時期

養育してくれる大人の愛を確かめるために問題行動を起こす。食べ物にまつわる行動(過食・拒食・偏食)、物を散らかす、飲み物などを床にまき散らすなどさまざま。
里親はこういった行動を叱らずに受け止める。試し行動につきあうことが、子どもとの愛着関係を築く。

「赤ちゃん返り」の時期

子どもは赤ちゃんのときにしてもらいたかったことをしてほしいと里親に求める。哺乳瓶でジュースを飲む、おむつをしてもらう、ハイハイをするなど、ここでは思い切り赤ちゃんにさせる。
1日中赤ちゃんでいるわけではなく、赤ちゃんになったり、年相応になったりするので、場面場面で対応。

「穏やかで素直な子どもに変化」の時期

今までのあの時期は何だったのかと思うほどに、子どもが穏やかに素直に変化する。そうなるには里親の受容すしようとする気持ちが子どもに伝わらなければならない。

本には「里親は試し行動の時期の子どもがかわいく思えないことがある」と書かれています。

それでいいんですね。

ただ、里親以上に子どももつらい時期なのだと理解しなければならないと思います。

 

「はじめまして、愛しています」に見る試し行動

ドラマ「はじめまして、愛しています」

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ドラマでは、試し行動は2話・3話、赤ちゃん返りは4話に出てきます。

児相の堂本さんが語る「試し行動」

ドラマで余貴美子さんが演じる、児童相談所の堂本さんが養父母に「試し行動に」について話す場面があります。一部を抜粋します。

のりしか食べない。
スーパーで好きなものをかごいっぱいに入れる。
部屋中に食べものや飲みものをまき散らす。
タンスのものを全部引っぱり出す。
噛みつく。
何度も叩く。
この状態がいつ果てることもなく続いたかと思うと、実の親に甘えられなかった反動で赤ちゃん返りする。
家事をしていてもトイレに入っていても24時間離れない。
根を上げてそれをやめさせると、子どもはたちまち心を閉ざします。
子どもは決してかわいいもんじゃありませんよ。

里親になると、このように地獄の毎日が待ってるんです。

堂本さんはおどしているわけではありません。

ここでひるんではいけない、里親にとってここが正念場ですよと発破をかけています。

 

「はじめ」の見せた試し行動

虐待を受けて施設に入所したのちに里親家庭に迎えられた男の子「はじめ」。

「はじめ」はさまざまな試し行動を見せました。

  • ジュースや小麦粉、しょう油、ケチャップを床にまき散らす、拭いていると次の部屋にまき散らすをくりかえす
  • 引き出しを開けて、中の服を引っ張り出す
  • 風呂場で水を出しっぱなしにして延々まき散らす
  • 食事はパンとのりばかり食べる
  • スーパーで同じものをカゴに入れる→ゼリーやジュースでいっぱい
  • わざとおしっこを漏らす(1日10回以上)
  • 干していた洗濯物を引っ張って落とす
  • ソファにフォークを突き刺す
  • 夜中に起きて、家中をウロウロする
  • 養母の腕に噛みつく
  • 養母の腕をつねる
  • 養母のピアノを傷つけようとする

養母は自宅でピアノ教室をしています。

養母の腕を噛んだり、ピアノを傷つけたりするのは、養母が何を大事にして何をしたら困るのか、はじめがよくわかっているからです。まさに養母を「試している」わけですね。

 

「はじめ」の赤ちゃん返り

  • 24時間離れない(抱っこやおんぶ)
  • おしゃぶり
  • オムツ
  • 哺乳瓶でミルク
  • よだれかけ

赤ちゃんごっこのクライマックスが「出産ごっこ」でした。
養母があおむけにベッドに横になり、布団をかけ、「うーんうーん」といきむ真似をします。
「はじめ」は布団にもぐり、養母の脚のあいだから出てきて、「生まれた!」となるのです。

 

試し行動は何歳からでもある

迎えられた年齢(月齢)がいくつであっても試し行動はあると言われています。

知り合いの養親さんは生後8か月で迎えたお子さんの試し行動について話されていました。
乳児院では離乳食をよく食べていたのに、家に連れ帰った途端に全く食べなくなってしまったそうです。

困った!というより、来た来た!と対応できたのは、試し行動の知識があったからだと話されていました。

 

試し行動への基本的対応

試し行動の対応の原則です。

  • 叱ってはいけない
  • 終わるまで思いっきりやらせる
  • 大事なものはしまっておいて思う存分やらせる

ドラマでは堂本さんが言います。

「養子にやってきてやったんだから、てめえらしっかり育てんかい」という、はじめくんの心の叫びです。
あなたやる人、私片付ける人くらいのつもりで、ドーンと構えてください。
お母さんが受け止めてくるとわかれば、はじめくんも変わりますから。
耐えてください。
だって、はじめくんは、今まであなたより何倍もつらい思いをしてきたんですから

 

養子縁組里親になるための研修で紹介されたケース。
里子とスーパーに行くと、ジュースやゼリーなどを売り場にあるだけカートに入れて買ってとせがんだ。
養父母さんは毎回全てを買い与えた。

養父母さんは里子専用の冷蔵庫を用意して、対応したと聞きました。

 

試し行動はどれくらい続く?

試し行動がどれくらい続くかは、ケースバイケースです。
平均して6か月~1年の期間と言われます。

ドラマでは、「はじめ」は味付けのりばかりを食べたり、食べ物を混ぜて遊んだりするばかりで、養母が作った食事に手をつけようとしません。

堂本さんは次のようにアドバイスします。

たとえ食べなくても、3食普通に作っておいしそうに食べて見せてください。
その方が早く終わります。やっているあいだは永遠に続くと思うかもしれませんが、終わってみればあっという間のことが多いですから。

 

周囲の理解を得る必要

ドラマでは、養父母は堂本さんの助言を受け、「はじめ」の試し行動を受け止めようと努力しますが、養父の妹らが「はじめ」の様子を見て、心配します。

甘やかしすぎじゃない?
しつけをしなくていいの?
こんな子を引き取って、本当に大丈夫なの?

このように養父母は試し行動を理解していても、親族などの周囲が理解できていないために、養父母がますます心労を背負ってしまうことがあるそうです。

祖父母と同居しているようなケースでは説明して理解してもらい、協力を得なければならないと思います。

研修では試し行動の半年間、養父母の両親(子どもにとっては祖父母)や親族に子どもを会わせないようにしたケースもあったと言われていました。
試し行動の時期に会ってしまうと、祖父母などの親族の子どもへの印象がとても悪いものになり、のちのちまで影響してしまう可能性があると考えたと話が及んでいました。

 

思春期への流れ

「子どもの養子縁組ガイドブック」には子どもが試し行動を存分にできなかった場合のことが書かれています。

叱られて行動をやめたとしても、子どもは「この人たちはよい子にしていないと受け入れてくれない人なのだ」とあきらめて、よい子を演じるだけ。
親への信頼を築けないまま育ちます。
多くは思春期にとてつもない反抗となって返ってきます。

もともと思春期は親への反抗をする時期であるのに加え、養子の場合は実親の存在や実親がなぜ自分を育てなかったなどの葛藤から、反抗が数倍激しいものになることが多いのです。

思春期になってから慌ててもどうすることもできません。
幼少期からの関係を築いておくことが大切。
「試し行動」を受け止めることはその一歩であると思います。

 

まとめ

  • 「試し行動」とは子どもが新しい親が自分を何をしても愛してくれるか、確認する行動。
  • 終わりが必ずあると覚悟して、親は「試し行動」を受け止め、子どもに思う存分やらせる。
  • 「試し行動」を乗りこえれば親子関係が築きやすくなり、叱ってやめさせれば思春期まで問題をひきずることになりかねない。

 

参考図書

 

たまひよの家庭養護促進協会の紹介記事、試し行動、真実告知について書かれています。写真がリアル。
https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=127826

3歳半で迎えられたお子さんの試し行動の内容を含む記事です。
https://www.yomiuri.co.jp/medical/renaissance/20220228-OYT8T50222/

コメント

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